「協力隊への応募動機による隊員のクラスター分析」(JICA研究所)というペーパーが手元にあります。
https://www.jica.go.jp/jica-ri/ja/publication/workingpaper/l75nbg00000i07dm-att/JICA-RI_WP_No158.pdf
この英文ペーパーを読む機会があって、読みながらふつふつと怒りがこみ上げてくるのを感じ、最後まで読み通すのがやっとでした。現在JICAのボランティアとして途上国の現場に立つ身として、JICAのこうした文書に楯突くのは好ましくはないでしょうし、控えるべきなんでしょうけれど、私自身にはなにも失って惜しいと思うモノも立場もないので、ここにきちんと書きとめておこうと思います。
最初に、欧米の同種の研究に対して
「 they fail to categorize volunteers into typologies, the characterization of which could help managers to effectively recruit, train, and manage volunteers.」
とこのペーパーを自己評価しておられる。
要するにこのペーパーは「ボランティアをその応募動機によって主成分分析・クラスター分析でもって類型化し」、その分析結果を「ボランティアの採用や訓練、さらに隊員管理に役立てることができるだろう」という発想によるものです。(この発想自体、私は『いかがなものか?』と感じていますが・・・)
JICAボランティアプログラムを、
「the JOCV program has been successful in recruiting young Japanese people who have the motivations suitable for its three purposes.」(3 purposes とは 1. 対途上国技術サポート 2. 国際交流・国際理解 3. 若い世代の世界に対する知見深化)
と評価しています。 しかし、現状では応募者数の減少傾向があり、要請を充分に満たせない状況なんですが、JOCV応募者の減少傾向をどのように捉え、どのように対処すべき、あるいは放置すべきなのか、触れることなく何も伝わってきません。(このペーパーの主題ではないのでしかたないですが・・・)
私たち、現場に立つJICAボランティアは、それぞれの人格・それぞれの個性でそれぞれの任国において配属先の現実と向き合い、さまざまな障壁に直面し、泣き言を言っても誰も助けてくれない孤軍奮闘の毎日を日々戦っています。 途上国の現実は、協力隊員たちが応募時にかけていた(とJICA研究所がおっしゃる)6種類の(途上国に対する)メガネなど一瞬で吹き飛ばしてくれ、協力隊員たちをダイナミックに変えていく、という現場の姿を知らないわけではないはずの(JICA研究所の)人々が、このように「協力隊員を統計対象のマスとして類型化し、その結果を『採用・訓練・隊員管理』の道具として活用しよう」というこのペーパーの考察には、読みながら「違うんじゃないかな~」と感じ、さらにふつふつと怒りをさえ覚えざるをえませんでした。 冗談じゃない、私たちは「統計処理の対象」として今途上国の現場に立っているわけではない、途上国の現場は個々の隊員の応募動機など容赦なく吹き飛ばし、隊員たちをダイナミックに変えていく、そのことを理解せずに「応募動機の類型パターンというメガネを通して採用・不採用の判断材料にする」としたら、誤った選別を重ねることになるでしょう。 また、訓練によって「望まれる類型に矯正しよう」などとお考えにならないほうがよろしいか、とも思います。途上国の現実は「訓練による矯正」など足元にも及ばぬほどにダイナミックに隊員を容赦なく変えてくれます。必要なのは、それをしっかり受け止める(隊員側の)「ふところの深さ」です。
たしかにそのように応募動機を6種類に類型化し、応募動機の作文に当てはめれば、「この要請にこのタイプは不適格」と容易に判断できるでしょうし、そのことによって書類審査の効率を高めることも可能でしょう。 しかし、途上国の現場を知っている方々がそのような発想に行き着いたとはとても思えません。 なぜなら、途上国の現場のダイナミズムは応募動機のあれやこれやなど容赦なく吹き飛ばしてくれるはずだからです。 おそらく応募動機がどうであれ、途上国の現場にいったん立てば、彼/彼女はそのダイナミズムの洗礼を受け、自ら変わる以外に2年間もたない状況を自覚するはずだし、自覚しないままでも自ら変わっていくはずです。その程度に途上国の現場は容赦ない場所である、と私は思っています。
私は以前から、協力隊員に必要な適性は2つある、もっと言えば「2つしかない」と考えていました。 その2つとは、
1. ストレス耐性
2. コミュニケーション能力(もっと言えば『総合的な人間力』)
それ以外のことは極端に言えば「どうにでもなる」とさえ思います。応募動機がどの類型パターンに当てはまるか、など枝葉末節なこと、と私には思えます。
統計的手法に依拠して事務処理の効率を追い求めるのでなく、もっと手間・ヒマかけて協力隊員としての適性をみていただきたい。
そのようなところで効率をもとめるのではなく、「なぜ途上国の現場から派遣要請があがってから隊員が派遣されるまで1年以上(へたすれば2年近く)もかかるのか?」ということのほうが、途上国にとっては切実な問題であることをご理解いただきたい。
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