「同化」と「異化」

木曜日 , 8, 3月 2018 Leave a comment

異化という言葉はあまり聞きなれない言葉ですが、演劇に興味ある人であれば、ドイツの劇作家・ブレヒトの演劇理論で「異化」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。

ここで私が考えているのは、異化というよりは異物、というべきかもしれません。
なので、タイトルはもっと正確に言うならば「『同化』を求める努力と『異物である』という自覚」と表現すればいいのかもしれません。

JICAボランティアにとって、途上国の現場で『同化』を求める努力もたいせつだけれど、「『異物』である」という自覚・『異物』であり続けようとする姿勢」も必要かもしれない、という意味を込めています。

体調を崩したとき、例えば熱がでた、腰を痛めた、デング熱に感染した、などなど、様々な原因で体調を崩したとき、私たちは薬を服用します。 薬は体調を戻すサポートをしてくれますが、基本的にはからだにとって「異物」です。
おなじように、私たちJICAボランティアもまた派遣先、途上国の現場にとって「異物」であるはずです。途上国の自立・自助をサポートするという目的はあっても、あるいはそれだからこそ、私たちJICAボランティアは途上国の現場にとって「異物」であるはずです。

JICAボランティアが途上国の現場で「とりうる姿勢」、というか、「求められる姿勢」といえばいいのか、「途上国の人々に寄り添い、彼らとその日常を共にし、途上国の現場・風土に溶け込もうとする」というのが、一つの姿勢としてあげられます。「同化志向」です。 こうした姿勢が最も効果を表すのが現地語の習得であって、意識する・しないに関わらず、同化志向のレベルと現地語習得のレベルは正相関を示すようです。

一方で「『異物』である」という自覚、とははたしてどういうものなのか、あまり明確に語られたことはないようですし、そういうことに触れられる機会も少なくて、話題にすらならないのが実際のところです。 しかし、この「『異物』であるという自覚」はJICAボランティアの協力活動・技術支援にとって、かなり重要な要素、と私には思えます。 私が途上国の現場で自分自身を『異物』として強く自覚させられたのは、アフリカ・スワジランドで2回の派遣、計21か月のSV(シニア・ボランティア)を経験した時でした。なにが私に『異物』であるという感覚を強いたのか、判然としないのですが、日本人といっても全土からかき集めても4~5人しかいないし、また東洋人そのものもめったに見ることもない、というスワジランドで出会う人々の私への視線には常に「肌の色がオレたちと全く違うお前はいったい何者だ?」という問いかけを感じ、そのたびに私は自分が「この土地では異物である」ことを痛感したものです。 そしてその感覚は協力活動のなかでも続いていて、「はるか東洋の地からやってきた、お前のしていることは何なのだ?」「お前は何をしたいのだ?」という問いかけを感じ続けた21か月余でした。

この「異物感覚」は即自的なレベルでは「疎外感」に通じるものですが、スワジランドでは私は『異物である』という感覚を、むしろ心地よく感じていましたし、その自覚が自分にとって武器にさえなりそうに思えたものです。 なぜ心地よく感じるようになったのか、「いつから」とはっきりとは言えないのですが、『異物』である私、およびその『異物』である私のふるまいを彼ら(スワジランドの同僚たち)が『異なもの』と受け止め、『俺たちと違うぞ』と意識し、もしその『異物』が「無視できない何者か」であれば、『俺たちと違うぞ』という意識は「俺たちの現実」を振り返るきっかけを与えたかもしれません。 『異物』であることを貫けば貫くほどに、現地の人々を逆照する、という感覚が私には心地よく感じられました。 『異物』である私を凝視する彼らの視線が「異物である私・私の振る舞い・私の言葉」を通して逆に彼ら自身を逆照し「俺たちの現実」に突き刺されば、しめたもの、です。 「異物である私」はひょっとすれば、「彼らの当たり前の日常」「彼らの当たり前の振る舞い・考え方」を彼ら自身に対して対自的に照らしだして、「ひょっとするとオレたちの『当たり前』はまちがっているかも?」と自問するきっかけになっていたかもしれない。 そしてこの感覚の中に、昔すこし観たことがあったブレヒトの芝居のことを思い出して、「そうか、これがブレヒトの云う『異化作用』のはじまりなのかもしれない」と思ったものでした。

演劇理論としての『異化作用』と国際協力の現場における『異物というありかた』、まったく異なる世界の話のはずなんですが、意外と底のほうで通じ合うものがあるのかもしれません。

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