技術短大のLecturer(講師)もやってます

Swazilandに赴任して3ヶ月ほどたった頃、CP(カウンターパート)から「SCOT(Swaziland College Of Technology 技術短大)からサポートの依頼が来ている」という話があり、ある日CPとともにSCOTを訪ねてみました。 ただ、システムの開発などと違って、「人に教えることは私の専門領域ではないよ」とあらかじめCPにはことわっておきました。

SCOT 授業風景
SCOTには、建築・土木・自動車・機械などと並んで情報関連の学科(Faculties of Information Communication & Technology)があり、3年のコースが設けられています。 まず授業を見学させていただきました。 40台ほどのデスクトップPCを有するPCラボがあって、30人ほどの学生が授業をうけていました。 どうやらプログラミングの授業のようで、学生の操作しているPCの画面を覗くと、おそらくEclipseかNetBeansのようなIDEツール(Integrated Development Environment 統合開発環境ツール)を用いてプログラミングの実習中、という様子でした。

 

SCOT 学生の実習問題
授業のあと、ICT系学科の責任者の女性と話す場がセッティングされ、いきなり「来週からここのICT学科のクラスの講座を受け持っていただきたい」と言われ、面食らってしまいました。
「そんなの、きいてないよ~」とCPに助け舟を頼むべく、CPのほうを見ると、CPは最初からその予定だったと言わんばかりの様子で「うん、うん」とうなずいているじゃないですか・・・
女性責任者(P女史)のほうは、もう話は決まっているものと思い込んでいて、どんどん話を進めていこうとします。
「JAVAプログラミングの講座とWeb開発の講座があるんだけど、両方できれば一番良いのだけど、どちらか片方でもかまわないわ」
(・・・・いやいや、そんな「どちらか片方でもかまわないわ」というような問題じゃないんだよ・・・)私は、自分だけが筋書きを知らされていなかったドラマの舞台にいきなり立たされたような気分で、あっけにとられていました。
そこへさらに一人の女性が現れ、その人もやはりICT学科の講師で、別のクラスのプログラミングを受け持っていると紹介されました。 なにやらP女史と相談して、おもむろに私に向かって「JAVAの講座を持つのだったら、私のクラスもお願いできるとうれしい」。
(・・・いやいや、私はちっとも「うれしくない」! そんなに簡単に決めないで、ラーメンの替え玉注文じゃないんだから・・・・いかんせん私の英語力は、こんなスラングめいた抗議を口にするには程遠かった・・・)
 
 

で、結局、見学した1年生のクラスとこの女性講師の3年生のクラスのJAVAプログラミングを受け持つことになってしまいました。
ただ、「来週から」という要請に対しては、全くなにも準備していないので「準備期間をいただきたい」と約2週間ほどのレクチャー資料作り期間をいただきました。
1年生が週2コマ、3年生も週2コマ。 計4コマ。 ただ、ここSCOTのひとコマは2時間です。 つまり、週8時間のレクチャーです。 
「現在受け持っている講師と分担してやればいい」とのことですが、どうなることやら・・・
 
これが、私がSCOTでプログラミングの講座を受け持つことになった経緯です。
こちらからなにか頼むときは実現するまであれやこれやの紆余曲折を経験するのですが、彼らがこちらになにか頼むときのこの手際よさ! この手際よさを、自分たちがなにか頼まれたときにも発揮してくれると、私はとてもうれしいのですが・・・
 
一方的な話の進み具合に多少憮然たる印象はあったけれど、内心、「いいところにとっかかりができた」と喜んでいたのも事実でした。
パラオでの2年間のシニアボランティアの経験から、ICT教育の遅れている途上国で、どうやって全体のレベル向上をはかるか、を考えていて、ICT教育の教育現場(=教室)で教鞭をとるという形態ではなく、「ICT教員の生産工程に直接関わる協力活動が不可欠だ」という結論を得て、任期を終えました。
直接ICT教育の現場(学校の教室)に入って生徒に教える、というのも活動形態としては可能なのですが、その場合、「代用教員」の域を突破するのは難しい。 影響を与える範囲も、同僚教員数名と生徒たちに限られます。
「ICT教員の生産工程」、つまりSCOTのような「将来ICT教員としてSwazilandの学校の教壇に立つ可能性のある人たちの学びの場」で彼らのレベルアップをはかること、そのことによってSwazilandのICT教育にたずさわる教員のレベルアップをはかること、これがおそらくSwazilandのICT教育の向上にもっとも必要なステップなんだろう、と私は考えていましたから、今回のSCOTからの依頼はある意味「渡りに舟」とも言えるものでした。 これは多少ムリを承知でも受けるほかありません。
 
University of Swaziland
Swazilandの高等教育でいうと、まずUniversity of Swaziland(通称 UNISWA)があります。 SwazilandでUniversityを名乗るのはここだけです。
あとはCollegeを名乗る機関がいくつかありますが、公的な教育機関としては、SCOT(Swaziland College Of Technology)とWPC(William Pitchers College)があります。

William Pitchers College PC LABO
 
 
3つの大学・短大には教員養成を目的としたコースがあるようですが、UNISWAとSCOTは中等教育機関、WPCは初等教育機関の教員養成、とそれぞれ棲み分けができているようです。
UNISWAにもICTを学ぶ学科はありますが、私の”独断と偏見”によれば、SCOTでICT関連のコースにやってくる学生のほうが高いmotivationをもっているだろう、と予想しています。
SCOTのICTコースにやってくる学生たちは、おそらくUNISWAの学生たち以上にはっきりした目的意識(「自分は将来ICTの分野でメシを食っていくんだ」)があるはずだ、と思うからです。
 

Swazilandの教育に関しては、欧米や日本からもさまざまな提言があるようです。 例えば「SwazilandのSecondary,High schoolの教員の質的向上をめざすためには、UNISWAの教育学部の卒業生、自然科学系学部の卒業生をもっと増やすべきだ」という提言をみたことがあります。 ですが、私はその提言には「何か違うんだけどな~」と感じていました。
 
UNISWAの学部卒を増やす、そのためには何が必要か・・・・設備面の拡充も必要かもしれませんが、もっとも肝心なのは「学部卒を増やすための教員(教授etc)の拡充」です。 その部分への具体的な提言なしに「学部卒を増やすべき」という提言は、私には「何か違うんだけどな~」としか受け止めようがありませんでした。 Swazilandの中等教育を担当するプロフェッショナルな教員の量的拡充・質的向上の前提となる、UNISWAなど高等教育機関の教員の拡充をどう手当てするか、という視点なしには空論に見えてしまうのです。 Swazilandの教育をなんとかしたいと思うなら、もう一歩そこまで踏み込んだ提言であってほしいな、と感じた次第です。
 
日本は明治維新後、主にヨーロッパ諸国から近代技術や統治機構の専門家を招いて、数十年という訓練期間を経てようやく「国産教員」を育てるレベルまで持ち上げていった経験があります。 そこには、とりわけ資源といってもなにもなく、小さな国土で、「教育こそ国の資源」という認識があったのだろうと思います。 同じように、資源に恵まれているわけでもなく、小さな国土で「教育立国」を目指す以外に国の将来が見えないようなSwazilandですから、数十年という長い単位で「人材国家構築」を考えてみる必要があるだろう、と思うのですが・・・
 
「Swaziland人によるSwaziland人ICTプロフェッショナルの養成」を究極の目標として、そこへ至るための数年あるいは十数年にわたるであろうタイムチャートを描き、そのチャートを双方(日本とSwaziland)合意の上で、チャートに沿った短期・中期の協力計画を、というのが私の理想としてあるのですが、単年度会計をベースとして単年度で何らか成果を挙げることなしには次年度予算がカットされたり、「仕分け」対象にあげられたりするような、せっかちなお国柄ではむずかしいでしょうかね・・・・
 
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