【IGCSE試験問題】 試験の内容に感じる違和

IGCSE(International General Certificate of Secondary Education)は英国・ケンブリッジ大学か監修する国際的な統一試験で、スワジランドにおいても中等教育の到達度判定や高等教育機関への、日本でいうところの「センター試験」的な役割をもっています。 情報(ICT)科目についてもIGCSEをベースにした試験がおこなわれており、スワジランドでは南部アフリカ諸国(南ア・ジンバブエ 他)に比べて成績が極端に悪く、成績向上が喫緊の課題になっています。

私は前回赴任時(2012.7~2013.6)、カウンターパートの求めに応じてIGCSEの情報(ICT)科目の問題をレビューしたことがあるのですが、その当時からIGCSEの試験問題に強い違和感をもっていました。 今回ここで、すこしその違和感を分析してみようと思います。 私の感覚が的はずれなのか、IGCSEの試験問題に問題あるのか、判断はお任せします。

以下の画像は、IGCSE試験問題(2012年版)のICT科目の一部です。 (クリックして拡大可)
文書作成の能力をWORDを使って問う問題です。

IGCSE ICT科目(2012)の例
問題に関する指示が、43項目にわたって非常にこまかく与えられています。
左図は、そのうちのWORDのセッティングに関連する部分です。

まず用紙サイズの指定にはじまって、用紙の方向・マージンの設定、さらに行間の設定など、ことこまかに指示が出され、受験者は指示とおりにWordの操作ができるか否かが試されます。

コンピュータを使って仕事をする場合、私たちの思考回路はどのようになっているか、すこし考えてみます。
例えば、ワープロを使って「会議への出席要請」をおこなう文書を作成する、というケースを考えてみます。

ここでまず「Why」が見えてきます。 「なぜこの文書を作成するのか?=文書の目的?=何を伝えたいか?」です。 この文書では、会議の日時・場所・議題を出席者に正確に伝えることがまず肝要です。 ですから作成する文書のなかで、「日時・場所・議題の部分を強調する」必要があります。

次のステップで、「強調するには何ができるか?」を考えます。 これが「What」です。自身の経験や知識の引き出しの中から、例えば「文字を大きくする」とか「文字色を変える」とか「ボールドにする」とか、いろんな解決手法が引き出しのなかにしまってあるずです。

「What]が解決できると、ここでようやく「How」が表面に現れます。「・・・・するには、Wordではどのような操作が必要か?」です。 例えば「文字を大きくするにはWORDではどのような操作をすればいいか?」などなど。

このようにWordやExcelを使って作業をする場合、「Why]と「What]を解決したあとに、はじめてツール(WordやExcel)の操作が問題になってくるはずです。 

一方で、IGCSE・ICT科目では、上図の出題形式からわかるように、ここで試されるのは徹底して「How」の部分であり、「What」や「Why」については全く問われません。 言い換えれば、受験者は「どのような目的」で「何を伝えるドキュメント」であるのか、全く意識しないで答えられます(=意識しなくても正解できます)。

私たちが仕事の現場でこのようなケースに直面した時に、どのような指示を出すか?ということを振り返ってみたとき、おそらく現場では全く逆のアプローチをしていることがわかります。 つまり、「What」や「Why」(何を目的とする文書で、何を情報として含むべきか)を作業者(ワープロオペレータ)に伝え(指示し)、「How」については多くの部分を作業者の裁量に任せています。

これは作業者(文書オペレータ)たちが、「『What』や『Why』を、読み手に間違えることなく正確に(必要十分に)伝えるためにはどのように表現するのがよいか(『How』)?」という訓練を現場の作業のなかで積み重ねている結果、と考えてよいでしょう。

そのような訓練のなかでは、例えば「フォントを大きくするには?」という問題設定が単独に存在するのではなく、「文中、強調したいときには、どのようにすればいいか?」という問題意識が先にあって、その問題解決の選択肢として、「フォントを大きくする」や「文字色を変える」や「文字をボールドにする」などの「How」が知識・経験の引き出しに蓄えられています。

そのため、「文中、ある部分を強調したいとき(『Why』)」という場面に遭遇した場合に、作業者は自分の選択肢(『What』)の引き出しの中から最適なものやその組み合わせを選び出すことができます。 一方で、「How」から入った作業者には「なぜフォントを大きくするのか?」「なぜ行間を1行にするのか?」という回路が未形成なままなので、「文中、ある部分を強調したいとき(『Why』)」という問題を解決しようとしても、解決のための引き出し(『What』)がなく、ただ「フォントを大きくする」などの「How」が断片的に、問題解決と関連付けられずに存在するだけなので応用がききません(言い換えれば、引き出しにたくわえられていない、あるいは、引き出しそのものがない状態です)。

Cambridge大学のIGCSE・ICT試験の実習問題に感じる違和感をすこし掘り下げてみて、おそらく問題解決へのアプローチのしかたが、私たち、ITの現場で仕事をする人間とは逆なのではないか、「逆」とまではいわなくても、もっとも大事な部分(問題解決に必要なアプローチの最初の一歩・二歩)をはしょっているのではないか、という印象を受けました。
もちろん、Word初心者のWord操作理解度をチェックするための設問として、上記のような設問があってもかまわないと思うけれども、学習者に「何のためにこの操作をしているのか?」を伝えることがないままに、指示されたとおりに操作する(というか、操作を強いられる)、という光景には、どこか違和を感じます。
ケンブリッジ大学監修のIGCSE・ICT科目のテキスト本も、この試験と同様に、「How」の指示が書き連ねられているばかりで、「Why」「What」を学習者に考えさせる、あるいは理解させる、そのような記述はほとんど見られません。

LAN構築サポートの学校で。ネットワークケーブルのつくり方を教えると、一生懸命やってみる高校生たち
ICTの分野に限らず、中等学校教育のなかでできることなら「問題解決に向かう姿勢」というか、「問題解決へのアプローチの仕方」の初歩的な部分を学習者に伝えることができれば、大学やカレッジでの高等教育のレベルがもっとあがるのではないか、と思います。 

こうした傾向にあるIGCSEなので、Word TechnicianやExcel Technicianは育つかもしれませんが、「問題解決能力」に結びつく訓練としては、疑問です。 ただ、IGCSEで高得点を得ることがその後の進学・就職、さらに言えばキャリア形成の第一歩であることを考えると、スワジランドの「知識偏重型・IGCSE受験準備型」の教育の現状をかえていくというのはたいへん困難な道のりであろう、とは想像できますが・・・  アフリカはみんなこうなんでしょうかね~?

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