ICT教育の現況

【JICAボランティア(ICT分野)要請の背景】
スワジランドのICT教育(ICT : Information and Communication Technology 情報通信教育 平たく言えば、コンピュータ教育)の改善、というのが私がここスワジランドに派遣された目的、ということなのですが、赴任早々、かなり衝撃的な情報に接することになりました。 スワジランドを含めて、アフリカの多くの国で中等教育(日本でいう、中学・高校レベルの教育)のレベルチェックの指標として、IGCSE(International General Certificate of Secondary Education)試験を採用しています。IGCSEの試験結果は個々の受験者を試験の得点によってA~Gのクラスに分類し、聞いたところでは、A~Cクラスに入ることが将来の進学・就職に必須と言われているそうです。

IGCSEの試験結果はスワジランドでも評価され、他の国との比較で今後の教育の重点強化科目を調べるのに役立っています。 理数系科目(数学・化学・物理・生物・情報)について言うと、数学・化学・物理(自然科学)・生物では、IGCSEの参加国全体平均で、A~Cクラスに入る生徒の割合は50~70%、つまりどの国でも100人受験すれば、50~70人はA~Cクラスの成績をおさめている、という結果がでています。一方で、スワジランドはどうか、と言うと、25~30%とかなり低い値を示しています。 一方、ICT分野である「情報」科目はどうかと言うと、全体平均がやはり60%前後であるのに対して、スワジランドは何と、15%ほどの圧倒的に低い結果を残しています。
他の理数系科目もそうですが、とりわけICT分野のこの無惨な結果にスワジランド教育・訓練省が危機感を覚え、ICT教育の強化を重点課題とした、というのが今回の要請の背景にあると思われます。

【スワジランドのICT教育の現況について】
スワジランドにおけるICT教育の改善、というテーマを考えるために、スワジランドのICT教育の現状を知っておく必要があります。
スワジランドは国内を4つの地方に分けています。 北部のHhohho(ホホ)地区、中央部・西部のManzini(マンジニ)地区、南部のShiselweni(シセルウェニ)地区、東部のLubombo(ルボンボ)地区、です。各地区から4~5校ずつ、全国でHighSchool19校を選び、各校を訪問してICT教育の現状・ICT設備現況の調査・ICT教員との面談をおこない、また同時にスワジランドのHighSchoolで使用されているICT教科書や教育シラバスについても資料を取り寄せ調べてみました。

【ICT教育の現況 - ICT設備・機器について】
ICT設備・機器については、早い学校では2000年前後からPCの導入がはじまっており、今では逆にそうした早期導入校で設備・機器の更新に伴う問題(主に予算の問題、さらに初期導入を寄付でまかなった場合のハード・ソフト更新時の経費負担の問題など)が表面化しています。早期導入校のPCラボではほぼ例外なく故障したPCやモニタ・プリンタが山積みされたまま放置されていて、予算措置の困難さを物語っています。
HighSchoolへのPC Laboratoryの設置状況はよく進んでいるのですが、PCラボの設置だけでその後の実際の利用に必要な、とりわけ、LANやインターネットアクセスを可能とする設備まで整っている学校はごく少数、といえます。 PCラボを見学して、たいていのPCラボにはLAN環境用のSwitchingHUBが設置されているようですが、充分に利用されていなかったり、技術的サポートが不十分であったり、さまざまな理由で充分利用されていない、という印象を受けました。 インターネットアクセスについては、毎月発生する通信経費を予算措置できる学校がほとんどないのが実情でしょう。

【ICT教育の現況 - ICT教員の眼から】
面談したICT教員からスワジランドのICT教育について感じている問題点について多くの指摘がありましたが、共通するポイントが3つあります。

1.Form1~Form3(日本で言う、中学校2~高校1年生)の場合、クラス定員が
  40~60名で、PC1台を数名で、ひどいところでは5~6名で1台のPCを
  利用する、という状態で、PCの台数が圧倒的に不足である。
2.ICT科目のための時間数が不足していて、シラバスを消化しきれないのが
  現状である。 一週間に3~4コマ。ひとコマは、学校によって異なり、
  短い学校では35分、長い学校では60分。(ひとコマの長さが学校に
  よって異なる、というのも改善の余地ありですが、今はこの点については
  触れないでおきます)
3.WORD・Excelに比べ、HTMLの学習に困難を感じる生徒が多い。 
  教員自身もHTMLをどのように教えていいか自信がないように見受ける。

スワジランドのHighSchoolを代表するであろう、と思われるHighSchool、「Swaziland National High School」を訪ねたときのことです。 
このHighSchoolは、スワジランドを代表する大学UNISWA(University of Swaziland)の隣にあって、商業の中心都市Manziniの郊外、生徒数も1000名を越える大規模校です。 
PCラボを見せていただき、70台ほどの新品PCがズラっと並んでいました。 ただ、キーボードなどがカバーで包まれたままの状態で、まだ使用した形跡がありません。 案内してくださったICT担当教員の女性の先生に尋ねると、
 「ICT教育は来年からスタートする予定」
とのことでした。 すこし雑談していて、その先生がポロっと口にされた一言に驚きました。 曰く
 「私は専門は農業なんですよ。 コンピューターのことはよくわかっていないのですよ。 
  来年になればICTの専門教員を採用できるはずなんですが・・・」
と。
スワジランドを代表するHighSchoolでこの状態です。 他は推して知るべし、でしょう。
同じ時期にスワジランドの理数科教育の改善をテーマとするプロジェクトで調査にあたっておられたJICAのプロジェクト専門家の方が残された調査資料を拝読させていただきましたが、ICT分野ではICT教育を担当するのに充分な専門教育を受けた教員、というのはほぼゼロに近い現状です。多くの先生が民間のInstituteで2~3年のICT職業教育を受けて教壇に立っているようです。

【ICT教育の現況 - ICT教科書について】
スワジランドで使用されているICT教科書は、
  「IGCSE Information and Communication Technology
                 Graham Brown and David Watson 」
とタイトルされていて、副題に
  「Endorsed by University of Cambridge International Examination」
とあります。
裏表紙には、
  「This brand new textbook has been written ……..
     to support the latest syllabus for the University of
Cambridge International Examination IGCSE course ……」
とあり、このテキストがIGCSE試験の受験対策用教科書であることが明記されています。

では、スワジランド教育・訓練省が危機感をもって結果を受け止めた、IGCSE試験というのは、どのような試験なのでしょう? 過去の試験問題を取り寄せて、すこし分析してみました。

【ICT教育の現況 - IGCSE試験とは】
ICT分野のIGCSE試験は、
    1. Paper 1 ・・・ Theory
    2. Paper 2 ・・・ Practice(文書作成・データベース操作)
    3. Paper 3 ・・・ Practice(表計算・HTML・プレゼンテーション)
の3部構成になっています。
それぞれのPaperの問題についての感想は別途記載しますが、全体の感想として、
    1.「Theory」の問題は、「いかに教科書に盛り込まれたICT関連知識を
       正確に頭の中に詰め込んでいるか」を試す問題がほとんど
    2.「Practice」の問題は、こまかい操作が問題の中で指示されており、
      「いかに正確に文書作成や表計算ツールの該当する操作ができるか」
      を試す問題がほとんど
    3.1.および、2.からわかるように、受験者が「自分で問題解決の方途
      を考える」というタイプの出題は皆無

このIGCSE試験が、日本で言えば例えば「センター試験」のような、進学・就職を左右する大事な試験であり、進学・就職機会の乏しいこの国でこうした試験でハイスコアを取得することの重さが日本とは比べものにならないほど重いものであろう、ということは理解しているつもりですが、スワジランドが教育立国を目指すのであればあるほどに、こうした「知識詰め込み型」の教科書・試験の形態には「これでいいのかな~」という危惧を禁じえません。 

技術協力という名目でスワジランドのICT教育の一端に関わっているとは言え、私は単に10ヶ月間この国を通過するに過ぎない、いわば傍観者ですし、また「教育」という分野については全くのシロウトに過ぎないので、この国の教育についてあれこれ注文をつけるのは出すぎたことなのかもしれません。 ただ、やはり、8月に全国のHighSchool19校を訪問した折にお会いしたICT教員の青年たちの、例外なく真面目で一生懸命な姿勢を思い出すと、なにかお手伝いできることがあるのなら、と思わずにいられません。

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