【新聞記事から】Vision2022 : 行動計画・数値目標が示すこの国の現在

今スワジランドで「Vision2022」というスローガンがあちこちに掲げられています。 スワジランドの現政権が掲げる「2022年までに一流国の仲間入り」という壮大なキャンペーンです。 私がいる教育省の中にも大きなポスターがはってあります。
以前「Vision2022」についての記事を掲載しましたが、その後、6月のはじめには全国から500名あまりの人々を集めて、首相も出席して「一流国の定義をおこなう」という大掛かりなフォーラムが開かれました。(これもこの国が掲げる『Tinkhundla System』の一環と位置づけられる催しと考えられます) そこでは「一流国とは何か?」をテーマに数名ずつのグループに別れ、グループごとに定義を発表していました。 あらかじめ政府から模範解答的な文書が配布されており、各グループの発表も多少の文言の改変などありますが、ほとんど模範解答を踏襲したものでした。 

7月に入って政府から「Vision2022]達成に向けた行動計画が発表されました。 新聞といっしょに別冊のような形で配布され、私も購入して読んでみました。 タブロイド版9ページにわたる行動計画の最後に数値目標が表の形式で掲げられていて、それを読むと逆にスワジランドが現在抱える深刻な問題がまとめてみえてくる、という点でとても勉強になりました。

今回はその数値目標をすこし見ていきたいと思います。 (クリックして拡大可)
「Vision2022」行動計画・数値目標ー1

「Health:健康」欄では:
                 現在値         2022年
「平均余命」          49歳           60歳
「新生児・乳児死亡率」   80人/1000人     60人/1000人 (日本:約3人)
「妊産婦死亡率」      320人/10万人     120人/10万人 (日本:8人)
「看護師・助産婦数」    1.9人/10万人     2.8人/10万人

「Economics Prosperity:経済繁栄面」では:
                現在値         2022年
一人当たりGDP      $3,100      $4,580
失業率           41%          30%
ジニ係数          48           40
貧困率(一日2ドル以下で生活する国民の割合)
              63%          45%

はたしてどのような政策的根拠があって「平均余命を8年後までに11歳延ばす」という数値目標を掲げているのでしょう? なぜこの問題に最も影響があるはずの「世界一といわれ、30%を超えるHIV/AIDS感染・発症率」を行動計画のターゲットにしなかったのでしょう?

はたしてどのような保健・衛生政策によって「妊産婦死亡率を現在の三分の一にする」というのでしょう? 病院・診療所などの医療施設の拡充や医師・看護師・医療従事者の増員など、どうやって手当てするのかについて多少とも指針を示さなければ「画餅」としか受け取れないのでは? 

どのような雇用政策・産業政策があって、40%を超える失業率を30%に押し下げるというのでしょう? これもおなじように、失業率を下げるためにどのような産業拡充政策を立て、そのために必要な投資をどのように増大させるのか、まだなにも聞こえてきません。「空港を大きくすれば外国から訪れる人が増えるだろう、新たな投資も増えるだろう」というような安直な考えではとても納得できません。

どのような経済・福祉政策によって、「一日2ドル以下で生活する国民の割合を63%から45%に下げる」というのでしょう? 「人口のわずか5%が国の富全体の95%を所有する」と言われる格差社会にあって、なぜ「国民のおよそ三分の二が一日2ドル以下で生活する」という現状を生み出したのか、どうすればすこしでも格差是正に向かうことができるのか、そのような議論が全く聞こえてこない状況では、やはり「画餅」としか受け取れないのでは?

「Vision2022」行動計画・数値目標ー3

上の表(クリックして拡大可)では「インフラ」と「統治」についての数値目標が掲げられています。

「Infrastructure:インフラ」欄では:
              現在値         2022年
「道路舗装率」       25%           45%
「都市部の上水道普及率」  93%         100%
「地方の上水道普及率」   67%         100%
「電気普及率」       60%           75%
    ・
    ・
「医療施設まで8km以内の住民割合」
              64%           95%
「携帯機器によるインターネット普及率」
              38%           56%
「TV・ラジオの受信可能世帯割合」
              30%           95%

「Governance:統治」欄では:
                現在値         2022年
「イブラヒム指数」      50.8          65

 イブラヒム指数:アフリカ諸国の統治の健全性・透明性をはかる指標。
     4つの指標からなり、
      1.Safety & Rule of Law (安全・法治)
      2.Participation & Human Rights (国民参加・人権)
      3.Sustainable Economic Opportunity (持続可能な経済開発)
      4.Human Development (人間開発)
     モ・イブラヒム財団が毎年発表しています。
     詳しくは下記PDFで2013年版を見ることができます:
http://www.moibrahimfoundation.org/downloads/2013/2013-IIAG-summary-report.pdf

「Corruption:腐敗・汚職」欄では:
              現在値         2022年
「腐敗認識レベル」     94位           30位

 「Corruption Perception Level :腐敗認識レベル」
    公務員や政治家の腐敗の度合いを数値化した指数。 
    10点満点で評価され、スワジランドは3.1点で184カ国中94位。
    日本は8.0点でドイツと並んで14位。
    どのような施策をもってこのような劇的とも言える改善が可能だと主張するのでしょう?
      http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%85%90%E6%95%97%E8%AA%8D%E8%AD%98%E6%8C%87%E6%95%B0

こうしてみてみると、最初に書いたように、この数値目標がはからずも「スワジランドが現在もっている病弊の深刻さ」を逆証していることがわかります。
「国民の三分の二が一日2ドル以下で生活している」ってどんな貧困だか見当もつきません。
「失業率41%」、つまりほぼ2人に1人は失業中、この状況で若者に「将来に夢を持て」というのはムリな注文というものです。若年失業率はもっと高いはずでおそらく50%を超しているでしょう。
「地方へ行けばまだ4割近くの住民が電気・水道のない生活」、これも首都ムババネにいたのでは決して見えない現実です。
現在値が示すのは実に暗澹たる現実の姿です。 「とんでもない国にいるんだな~」と絶望的な気分になってしまいます。 JICAボランティアとしての技術協力・技術支援など、この国の圧倒的な現実にとって「象の足にとまった蚊のひと刺し」みたいなもんなんだろうな、と無力感にため息がでます。

今、この国のお役所には「2022年に一流国の仲間入り」という勇ましいポスターが必ずはってあります。
メディアも具体的な政策を問うという姿勢を今はまだ示してはいないようです。
その勇ましさとそしてこの行動計画が逆証する現実と、・・・・「画餅」と片付けてすますこともできないような・・・やはりどこか間違ってるんじゃないのかな~と思います。     2014.07.20 記

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